永く青い季節 〜十年愛〜
「花火、ここからでも気持ちほどは見られるらしいけど…
でも屋上の方がもう少し見えるらしくて、同室の人、みんな出てったよ。
美織もせっかくこっち来たんだから見て来なよ。
俺はまだあんまり動かない方がいいって言われてるからさ…」
「やだ。一人で見たって意味ないもん。ここで一緒に見る」
「そっか…わかった。じゃ、ここ…」
ベッドの横に置かれた椅子に座っていた私は、彼に促されベッドの隅に窓際を向いて座る。
彼は私の肩を両腕で包むように後ろから抱きしめた。
「良かった…腕は無事で」
私の髪に顔を埋め、呟くように言った彼の穏やかな声が、私の全身に染み渡って来る。
「そうだね…」
久し振りの彼の腕の中は、泣きたくなるくらい優しくて、とても落ち着く。
その感触に浸っていたくて暫く目を閉じていると、遠くでドーン、と音が響いた。
少し離れたビルとビルの隙間から、花火の一部分が少しだけ見えてはすぐに消えた。
「ホントに欠片もいいとこだな。ごめんな」
「いいの、来年に取っとくから。私、今日は花火見に来たんじゃなくて、幸に会いに来たんだもん」
「そっか…ありがと」