永く青い季節 〜十年愛〜
②
6月半ばのある朝、私はいつもより空いている電車の中で、腕時計を何度も確認しながら焦っていた。
うっかり二度寝をしてしまい、いつもの電車に間に合わず、次の電車は目の前で発車してしまった。
二本遅れのこの電車だと、駅から学校までダッシュしても間に合うかどうかの瀬戸際だ。
駅の改札を急いで抜け、歩道を走る。
鞄は重いし、朝からいつ降り出してもおかしくないような空模様の為、傘まで持っている。
部活の走り込みのような訳には行かない。
ふと、車道を隔てた反対側の歩道を走る同じ高校の制服を見つけ、その姿が彼だとわかると、さっきまで焦りながら沈んでいた心が途端にパッと明るくなった。
「藤元先輩も寝坊しちゃったのかな…」
少し前方を軽快に走る彼の姿を見ていたら、走るのに疲れて諦めそうになった気持ちも簡単に甦る。
「単純だな…私」
そう思いながら、彼との距離を保ちつつ、走り続けた。