永く青い季節 〜十年愛〜



走っていた彼が、何かに気づいて急に足を止める。


彼が屈んで拾い上げたのは、傘だった。それも折り畳みではなく、長い傘。

…長い傘、落として気付かない事なんてある?…

そう思って見ていると、彼も傘を持ち上げて一瞬少しだけ首を傾げたので、きっと同じように考えていたのだろう。

彼は傘についた汚れを手で払いのけるような仕草をした後、辺りをキョロキョロと見回し、ガードレールにその傘の柄の部分をかけた。



彼のちょっとした親切を、自分だけが見る事ができた幸せに、私の頬は綻んだ。
通勤通学で沢山の人が行き交う歩道、多分気付いても知らぬ顔で通り過ぎた人もいたに違いない。
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