永く青い季節 〜十年愛〜
④
五年間の空白を経て、彼に会ったあの日、心の中に溢れて来た甘く切ない痛みは忘れられない。
「こんにちは、失礼します!今度こちらの担当になりま…した……」
受付カウンターの奥で、レッスン室使用予定表の確認をしていた私は、入口から聞こえた声に顔を上げた。
「……幸…」
「…美…織?」
一昨年あったOB会には、仕事もあり参加しなかった。
梨絵も澤井先輩とは別れてしまい、
光井先輩は海外赴任、
もう私と彼を繋ぐものは何もなくなり、
彼がどこで何をしているのか、全く知らなかったのだ。
人づてに、近況や聞かされたくない話題が勝手に耳に入って来るよりは、この方が心の安静が保たれる…そう思っていた。