遠恋~会えない君へ~
episode 1
「雪~!」
名前を呼ばれて、ハッと目を覚ます。
勢いよく上げた頭が、何かとぶつかってゴツっと音をたてた。
まだ完全に覚めていないから、痛さが鈍くかんじる。
なにとぶつかったのか知るべく、あたしは視線を上とあげた。
「ちょっと痛いんだけど!!」
「ななちゃん!ごーめーんー!当たっちゃった?」
「うん。」
「ごめんね」
頭をぶつけてしまったのは、高校に入ってからの心友、ななだった。
斜めぱっつんの前髪に、右側へ流れるように長くした後ろ髪。
まさに“変形髪型”だと判断されるこの子は、特別チャラい不良女子ではない。
好成績を収める、いわゆるバカで勉強できる子だ。
生きがいはアニメだけ。
“アニメに生きてアニメに死す”を人生のモットーにアルバイト代全てをアニメとゲームにさ捧げるオタクだ。
ここで1つ言わせてもらうと、あたしは別にオタクじゃない。
アニメやマンガ、声優ももちろん大好きだが、そこまですべてをささげるほど好きではない。
更に言うと、ななとは正反対の性格だ。
それでも仲がいいのはきっと
あたしが、ななにあこがれを抱いていているからだと思う
好きなものを好きだと言える、自由な ななが羨ましいのかもしれない。
「ねぇねぇー7組いこー」
「まさかそのためだけに起こしたの?!」
「え、うん。ダメだった?」
「ううん、いいよ。一緒に行こう!」
7組には、ななと仲のいいキラがいる。
キラちゃんは、歌声の綺麗な一見、真面目そうな子だ。
まとめた髪と眼鏡が真面目さを印象づかせるが、中学時代は荒れていて、正真正銘の元ヤンだ。
右には3つ、左には4つのピアス。
すっぴんのようだけどばっちりメイクしていて、一重が二重になっていたりとその顔は整形なみだ。
彼女もまたアニメが好きで、ななと話がよく合う。
夏休み明け、暑さがまだ残るこの季節。
冷房のかかっていた教室から出ると、一気に蒸し暑さを感じる。
着ていたジャージを脱いで、手にかける。
ななは脱ぐのが相当めんどくさいらしく、汗をかき始めたひたいに手を当てるだけだ。
あたしとななは4組だから、7組はすぐそこなのだが…
ななにとっては相当堪える距離らしい。
途中で立ち止まっては歩くを繰り返す。
個人的には、こんなに暑いとこにはいたくないから、一刻も早く7組に行きたいんだけど…
「なな、ほら、はやく歩いてー。暑くてこんなとこいられないんだけどぉー」
「えー足が進まないのー。ななのせいじゃないわー」
いや足動かしているのはなんだから、と突っ込みを抑えて、手を引いて7組まで歩く。
「きぃらぁー!!」
7組についた瞬間、なながキラちゃんのとこへ駆け足でいく。
その元気あったのね、と軽く口にだしたけど、きっと聞こえてないはず。
「汗やばー!くっつかんでよ、汗つくわ」
「えー!!」
そういうとこ、大好きだけど嫌いだよ。
そんなこと、口がもげても言わない
別に秘密にしてるわけじゃないよ。
ただ、あたしの心が汚いだけ。