元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
男装の私と元帥閣下
ある朝、私は父上について訪問先の海軍元帥の屋敷の門をくぐった。
陸軍元帥である父にお供としてついてきた私は、黒地に赤い腕章のついた軍服を着て玄関へ歩みを進める。長い後ろ髪はまとめて軍用帽の中に入れていた。
口ひげをたくわえ、白いものが混じってきた頭髪はまだまだ頭皮から離れず、元気に生育している父は、がっしりとした体つき。年季の入った軍服はその体に馴染んでおり、いかにも軍人といった姿だ。
きちんと整備されているけれど、花の一輪も咲いていない面白みのない庭を通ると、同じく無駄な装飾が一切ない、機能だけを目的としたような住居が目の前に現れた。
父が玄関の扉をノックをすると、使用人と思われる少年がドアを開けた。まだ十代前半かと思われる彼は、私たちを玄関ホールから主人のいる応接室へと案内してくれる。
たどり着いた応接室は、接客用のソファとテーブル以外は余分なものがない。同じような階級の軍人の自宅にお邪魔したことがあるけど、そこは今まで獲得してきた勲章の数々や高そうな美術品が自慢げに飾られていたものだ。
「やあ、ヴェルナー。元気そうだな」
先に挨拶をした父の後ろからちらりと顔を出す。すると、窓際に立っていた屋敷の主人がこちらに近づいてきていた。
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