元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「どうしてあんなところに?」
明朝には合流する予定の味方艦隊と顔を合わせる時間のはず。ということは敵もだいぶ近くに迫ってきているのが普通。
もちろんこちらはいつ戦闘が起きてもいいように準備はしている。レオンハルト様にも早く降りてきて、細かい作戦の指示を出してもらわなきゃ。
彼は前回もそうだったように、味方艦隊にもぎりぎりまで指示を出さずにいる。
「あそこって、どうやって……」
見張り台に昇ろうとするけど、マストにくっついているのだから当然階段はない。代わりにマストの柱に付けられた縄梯子が。
あれ、登れるか? 縄梯子を登ること自体はできるだろうけど、見張り台は空にも届こうかという高さから私を見下ろしている。途中で落ちたりしたら即天国へさようならだ。
ごくりと喉を鳴らすと、いつの間にか近くにいたベルツ参謀がぼそっと言った。
「今は邪魔をしない方がいい」
「え?」
あまりに主張しない小さな声だったので、聞き逃すところだった。説明を求めるように見つめると、参謀は腕組みをしたまま見張り台を見上げた。
「あの方があそこにいるときは、完全に一人で考え事をしたいときだからな」
「そうなんですか?」
「ああ。作戦のことばかりではなく、ひとりの人間として物思いにふけりたいときに、誰の目にも表情が読み取れないような場所を選んでいるのだろう」