元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「お、降りてきたぞ」
ライナーさんの声でハッとする。見上げれば、レオンハルト様が軽々と縄梯子を降りてくるところだった。
甲板に靴の音を鳴らして降りてくると、彼は言った。
「進路を多少変更する。すぐに味方に連絡船を出す準備を」
アンバーの瞳がこちらを見ている。けれど私はまだ他の考えに捕われていて、即答することができなかった。
「ルカ? 返事はどうした」
「あ……はい! 今すぐに!」
怪訝な面持ちで見つめられ、ぎくりとした。他のことを考えていて副官としての任務をまっとうできないなんて恥はさらせない。
踵を返し、全速力で船内に戻る。すぐ傍に待機している連絡船をドッキングさせ、兵士を招き入れないと。
そのための信号旗を執務室から持ちだして外に出ようとした瞬間、レオンハルト様がドアの前に立っていることに気づいた。
追いかけてきた? いったい何のために。
「お前なあ、まず何の連絡をするか確認しろよ。いったいどうした」
後ろ手でドアを閉めて、レオンハルト様が私に問う。
「なにも……だって、船を出す準備をって」
「慌てるな。落ち着け。誰も責めちゃいないだろう」
ぽんぽんと私の肩を叩くレオンハルト様。その顔は怒ってもいないけど、少し呆れたように私を見つめている。