元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「だって……」
一年前、レオンハルト様が私と出会っていなければ。
私が、クローゼの家に生まれていなければ。あなたは戦争から逃れられたはず。元帥なんて地位を捨てて、ただの海洋学者にでもなってのんびりと長すぎる余生を過ごせたはずだ。それなのに。
「邪魔をしたいんじゃないんです。ただ、お役に立ちたいだけなのに」
自分が彼を苦しめているひとつの要因になっているんじゃないだろうか。
どうしようもない考えだけど、ひとたび囚われるとなかなか抜け出せない。
「ルカ」
レオンハルト様が私の腕をつかんだ。決して痛くはない力加減だったけど、驚いて落としてしまった信号旗が床に寝転んだ。
そのまま引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられる。
「俺がお前を邪魔に思うことなんてない。何があったのか知らないが、そんな申し訳なさそうな顔をするな」
彼はどうして私が動揺しているのか詮索することはなかった。ただ穏やかな声と体温で私を包みこむ。
「お前がいてくれるから、絶対に勝って帰ろうと思えるんだ。俺にとってお前は副官以上の……なくてはならない存在なんだよ」
そう言ってくれるレオンハルト様の言葉が嬉しい反面、心に突き刺さる。