元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「じゃあもし私がいなければ、このまま戦いを放棄して国に帰りますか。退役しますか。あなたにとってはその方が幸せじゃないんですか」
ギュッと彼の軍服をつかむ。すると、頭の上で低い声が聞こえた。それはほとんど、独り言のようだった。
「ライナーあたりにいらんことを吹きこまれたな?」
返事をしないでいると、ふうと短く息を吐く音が聞こえた。
「つまらないことを考えるな。もし、なんてどれだけ思っても意味がない」
「はい……」
「俺はあのときの亜麻色の髪の乙女に再会できて、心から喜んでるんだ」
レオンハルト様はそっと腕の力を緩め、私の顔をのぞきこんだ。
「お前が元気にみんなを叱ってくれないと、うちの艦隊はダメになる。もちろん、俺も」
「レオンハルト様……」
帽子を取られ、髪から頬へと私をなでる手が移動する。反射的にまぶたを閉じると、控えめな口付けが与えられた。
「ほら、笑え。俺の可愛い副官殿」
にっと白い歯を見せて笑ったレオンハルト様は、私の右頬をぷにっとつまんだ。けっこう痛い。
「あう。わかりましたから、放してください」
「結構。では副官殿、俺からの指令を伝える。しかと記録せよ」