元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

正気に戻った私は、レオンハルト様の言葉を間違えぬように記録し、連絡船の手配を済ませた。

そうだよね、過ぎ去ったことを悔やんだって仕方ない。

レオンハルト様の力になりたいと思いつつ、結局私の方が励まされてしまった。彼の方は迫る戦闘の兆しを読み取りながら、全く平気な顔をしている。

「……というわけで、明朝に戦闘開始だ。今晩は早く寝ろよ」

幼年学校の教師のような口調で兵士たちに命令すると、彼自身も幹部会議を終えたあとすぐに寝室に入ってしまう。

私は彼の体を拭き、作ってもらった衝立の陰で自分の体を拭き、更衣を済ませた。すると。

「さあおいで」

アンバーの瞳が、肉食動物のそれを想起させた。

レオンハルト様がガウンだけを羽織った姿で、ベッドに私を誘っている。

一応警戒はするけれど、明日は戦闘に入る身だ。きっと無理はしないだろう。

抱き枕になる覚悟を決めて、彼の横に入り込む。すると、がばりと覆いかぶさられた。

「ひえっ」

両手をつかまれ、昼間とは別物の深いキスをされる。苦しくてもがくと、手が離された。と思うと、私の寝間着の中にレオンハルト様の大きな手が入り込んでくる。

「ちょ、明日は戦闘に入るんですよ!?」

口を解放された途端に喚いた私を、彼は微笑んで見下ろした。

「だからだよ。恐怖心払拭と緊張緩和のためだ」

『ウソつき!』と叫ぶ前に、唇が塞がれた。貪るような彼の愛撫に、直前のセリフはあながちウソではないのかもしれないと、頭の片隅で思った。

彼は臆病ではないけれど、戦場に立つ直前はやはり気分が落ち着かなくなるのだろう。

私は無駄な抵抗をやめて、彼の手に翻弄されることを選んだ。

これで少しでも彼の複雑な心を満たすことができればいい。

そう思って彼という大きな波に揺さぶられるうち、夜は更けていった。

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