元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
元帥閣下の見る景色
明朝、夜明けと共に全員起きだして戦闘準備に入った。
「そこ! 寝ぼけた顔しないで働けっ!」
だらだらと歯を磨くフリをして何もしていない下士官を見つけ、叱り飛ばす。
「ほら、元気じゃないか」
レオンハルト様がそう言いながら、後ろを歩いていった。
体力的なものを心配していた私だけど、昨夜は短時間で解放されたため、思ったよりも体に疲労を残すことはなかった。
むしろ、ぐっすり眠って頭がはっきりしているくらいだ。そんなことを言ったらレオンハルト様が調子に乗りそうなのでやめておこう。
あえて反論はせず、無視して仕事に取りかかる。
「そろそろ見えてくるころだな」
総員が戦闘配置についたことを確認して甲板に戻ると、前回と同じく船首に立ったレオンハルト様が望遠鏡で前方を見ていた。
彼が言う『見えてくる』のは敵艦隊と味方艦隊の両方であることを私は知っている。おそらくその両方は、同時に視界に入ってくることだろう。
「今度こそはもうちょっと後ろに……って言っても、ムダなんでしょうね」
帝国全艦隊の責任者は、返事の代わりにふっと笑った。
司令塔がいなくなると困るのに、彼は最前線から離れようとしない。相変わらず自分の艦隊を前ではなく背後に配置している。