元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「おや、そちらの少年は元帥閣下の小姓ですか? コーヒーでも運んでくれるのかな」
遅れて現れた私を、中将の階級章をつけた褐色の髪の男が見つけて言う。その視線は場違いな私をあざ笑っているように見えた。
「彼は私の副官だ。陸軍元帥クローゼ閣下のご長男である」
レオンハルト様がわざわざ父の名前を出すと、中将は口をつぐんだ。彼以外の者も、一瞬ざわつきはしたものの、それ以上私がこの場に同席することに異論を唱えるものはいなかった。
私とアドルフさんは席がなく、レオンハルト様の近くの壁際に立つことにした。
「彼らはみんな、帝国海軍の提督。今から楽しくない会議が始まるよ」
アドルフさんがそう耳打ちしてきた。提督ってことは、みんな各艦隊のトップってことだ。
四人は四〇代から五十代と見られ、二人は三十代中盤、ひとりだけレオンハルト様と同年代に見える。
これだけでも、二十代後半で元帥となったレオンハルト様は、稀に見ない速さで出世した事がわかる。
「で。皇帝陛下から勅命が下されたというのはたしかな話か? ファネール」
「はい。これをご覧ください」
レオンハルト様が尋ねると、一番若く見える銅色の髪のファネール提督が恭しく巻物を取り出し、紐を解く。