元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
なんて運の強い人。私も船の下から飛び出て、レオンハルト様の後ろをついていく。
彼は怯える様子を微塵も見せず、堂々と城塞の正門へ向かう。
「ついてくるなら、胸を張れ。隙を見せたら殺されるぞ」
レオンハルト様が言うなり、城塞の方から鎖がじゃらじゃらと鳴る音が連続して聞こえた。
目を凝らすと、城塞の壁に設置された無数の砲台がその口を開けたのがわかる。
左右にある見張り台を見上げると、合計六人の敵兵士が銃を構えていた。
背中を冷たいものが駆け抜け、肌が粟立つ。
この高くそびえ立つ城壁の中に、いったいどれだけの陸軍兵士がいるのだろう。
ごくりと喉を鳴らす。指先が震えだす私とは対照に、レオンハルト様は歩みを緩めることなく、一直線に正門へ。
「撃て!」
とうとう敵の号令が聞こえた。
城塞から、見張り台から、無数の火花が咲く。殺意がレオンハルト様の至近距離を疾走し、彼のすぐ足元に落ちる。
銃弾が彼の軍服をかすめる。あちこちで地面が砲弾にえぐられ、地震のように足元を揺らし、砂埃を立てる。
常人ならば悲鳴を上げて逃げだす状況なのに、レオンハルト様は顔を下げることもなく、一定の速度で悠々と敵地を闊歩する。
その姿はさながら、本物の軍神のようだった。