元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「撃ち方、やめ!」
やっと正門の前にたどり着いた時、固く閉ざされた城壁の中から号令が聞こえた。
レオンハルト様とその後ろをついてきた私は無傷であり、それこそ魔術を使ったとしか言いようのないような奇跡だった。
「我が名はアルバトゥス海軍元帥、レオンハルト・ヴェルナー。我らが皇帝陛下の書面をお持ちした。エカベト国王陛下との面会を申し込む」
静かになった空にレオンハルト様の大音声が響き渡る。すると、目の前の正門がギイイと軋みながらほんの少しだけ、開いた。
きっと国王の周りにいるお偉いさんか、高級軍人がやってくるのかと思っていた私は仰天した。
そこに立っていたのは、頭上に至尊の冠を戴き、宝石が埋められた杖を持った、エカベト国王だったから。
「ご苦労である、ヴェルナー元帥」
黄金の模様が描かれた臙脂色のマントを揺らし、国王が一歩踏み出す。レオンハルト様は肩膝をつき、頭を下げた。私も慌てて跪く。
レオンハルト様が両手で差し出した皇帝陛下の書面を受け取った国王は、その場で紐を解いた。
さっと目を通すと、傍に控えていた軍服を着た男にそれを渡す国王。書面の内容は彼の予想の範囲内だったのだろう。
「ところで、ヴェルナー元帥。敵ながら、そなたの戦いぶり、誠に見事であった」