元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「ああ……はい、今日だけはいいでしょう」
みんな、今まで辛い戦いに耐えてきたんだもの。今日くらいは勝利に酔ったって罰は当たらない……はず。
「誰も来ないうちに言っておこう」
「はい?」
レオンハルト様の顔までオレンジ色に染まっていた。いつもより温かみのある輝きを持ったアンバーの瞳が私を見つめる。
誰が見ているかわからないのに、不覚にも胸がときめいてしまう。
「戦いが終わった。俺たちの勝利だ」
「はい」
この後に続く言葉の予想はついている。エカベトに上陸したときよりも大きく胸が高鳴った。
覚悟を決める私に、レオンハルト様が囁く。
「俺と結婚してくれ、ルカ」
予想できていたことなのに、即答できなかった。返事が決まっていないわけじゃない。涙がこみあげてきて、喉まで圧迫してしまったから。
「……はい。はい、レオンハルト様……」
退役して漁師になろうとも、学者になろうとも、無職でも、私はあなたについていきます。
だから、多少女性として至らない点があっても怒らないでくださいね。
誰にも聞かれてはいけないプロポーズを受諾し、うなずくと涙が零れた。
そんな私の涙を、レオンハルト様が指でぬぐう。私たちは誰も見ていないことを確認し、そっと手を繋いだ。
地平線に日が沈んでいく。ラベンダー色に染まっていく空に、無数の星が輝き始める。いつも当たり前のように繰り返される事象が、今日だけは私たちを祝福しているように思えた。