元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
一筋縄ではいかない状況
エカベトを出航して二週間後、途中でモンテルカストで一休みした私たちは、やっとアルバトゥスに帰還した。
軍港には大勢の市民や軍人が集まっていて、風船や紙テープが投げらる。歓迎ムード一色だ。
「ヴェルナー元帥万歳! 帝国艦隊万歳!」
「皇帝陛下万歳!」
船が完全に停まる前から、歓喜の声や歌声が私たちを包む。
「良かったなライナー。今夜はモテること間違いなしだ」
祖国の英雄のはずのレオンハルト様は、まるで士官学生のような軽い口調でライナーさんに言いながら船を降りる。市民が聞いたらさぞかしがっかりすることだろう。
「俺はいつでもモテてるよ」
ライナーさんはそう言いかえす。船を降りた兵士たちに、家族や友人、恋人が駆け寄ってそれぞれ帰還を喜んでいる。
ベルツ参謀の近くに綺麗で若い……多分私と同い年くらいの黒髪の女性が駆けつけた。
「あなた!」
「おお、妻よ」
若妻はフリル満載のドレスを翻し、ジャンプしてベルツ参謀に抱きついた。
こ、この人がベルツ参謀の奥様……ちょっとイメージと違ったな……。
アドルフさんとライナーさんは独身なので、迎えに来る人はいないみたい。けれど連れ立って飲みに行くわけでもなく、それぞれ両親のいる実家に一度帰ると言って解散した。