元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
レオンハルト様は『元帥閣下万歳!』と叫ぶ人たちに囲まれつつある。この戦争の英雄なんだもの、無理もない。
さて、私はどうしようかな。明日からは事務処理に追われる予定だけど、今日はこのままお休み。
家に帰るためには馬車を拾わなければならない。とにかくこの人でごった返す軍港から離れるしかないか。
じゃあレオンハルト様に一言残して去ろう。彼のほうを振り返り、ハッとした。人ごみの中から、亜麻色の髪をなびかせ、ドレスを着た女性が駆け寄ってくる。
「ルカ!」
「姉上」
「無事だったのね。良かった」
駆け寄ってきたのは、私にそっくりの姉上だった。姉上は私の顔を両手で包み、涙をヘイゼルの瞳に浮かべる。
「今帰りました。姉上はお変わりありませんか」
「私はこのとおり元気よ。ねえルカ、誰にもバレなかった? ひどいことされなかった?」
ぎゅうぎゅうと私を抱きしめる姉上。家族の中で一番私のことを心配してくれた彼女のことを裏切っているみたいで、胸が痛む。
女性だということがばれてしまったばかりか、結婚前だというのにレオンハルト様にもう何度も……なんてことは口が裂けても言えない。