元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
曖昧な笑みで返して黙っていると、後から父上が現れた。きちんと陸軍の軍服を着て、お供も連れている。
父上は私より先に群衆の間を縫ってレオンハルト様のもとへ。
「クローゼ元帥」
「ヴェルナー元帥、おめでとう。この度の功績、皇帝陛下もお喜びだ」
二人の元帥は固く握手を交わした。
「そうだ、約束していた花嫁を今日連れてきたのだ」
父上が姉上に向かって手招きする。私と姉上は父上とレオンハルト様に歩み寄った。
「ごきげんよう、ヴェルナー元帥閣下」
姉上が私には不可能なほど優雅にお辞儀をする。周りの群衆も思わず見とれるほど、姉上は美しい。
顔の造形だけでなく、鈴の鳴るような声も、柔和な物腰も、人々の視線を集めてしまう。
自分の胸の中に暗い渦が発生するのを感じた。
大好きな姉上だけど、レオンハルト様にあわせたくない。実際に顔を合わせたら、やっぱり姉上の魅力の方が上だということに気づかれてしまうから。
黙って二人を見ていると、レオンハルト様が笑顔を作って手を差し出した。
「初めまして、エルザ嬢」
その挨拶は、父上の顔をきょとんとさせた。
「はじめましてって……いやヴェルナー、自分で言ったではないか。以前一度会ったことのあるエルザを花嫁にしたいと……」