元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
ばあやが申し訳なさそうに頭を下げる。
「ばあやは悪くないよ。気にしなくていい」
もっと怒っていいはずなのに、ばあやのせいでタイミングを逃しちゃった。
「ルカ、あなた元帥閣下となにかあったんでしょう」
ずいと姉上が詰め寄ってくる。ヘイゼルの瞳に、好奇心がみなぎっていた。
「何かって?」
視線を逸らし、とぼける。
「まあ、私に隠し事をするつもりね。いいわよ、今夜全て明らかになるんでしょ。楽しみにしてるわ」
姉上はなぜか鼻歌を歌いながら、飾りつけられている花の角度を直す。その間に、広間のドアが開いた。
「……揃っているか」
現れたのは父上と、いつもは陰の薄い母上だった。母上は私と姉上とおそろいの亜麻色の髪を美しく結い上げている。
二人の姿を見た途端、緊張の度合いがぐんと上がった。その瞬間、からくり時計が騒がしく七時を告げる。私にはそれが地獄の門の警鐘に聞こえた。
「レオンハルト・ヴェルナー元帥閣下がお付きになりました」
若いメイドが広間のドアを開けて知らせる。やがて白髪の執事が客人を連れて現れた。
その姿を見てどきりとする。レオンハルト様は正装の代わりに軍服を着ていた。その手には見事な花束が三束も。