元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「クローゼ元帥閣下、皆様、お招きありがとうございます」
レオンハルト様はそう言うと、姉上と母上にピンク色のガーベラの花束を渡し、ハグをした。二人とも驚き、次の瞬間にはとても嬉しそうに目を細めた。
父上の部下が一年に何人も訪れる我が家だけど、その人たちが持ってくるお土産は父上用のお酒やたばこなどがほとんどで、女性に気を遣ってくれる人がいなかったからかもしれない。
「これはあなたに」
家族の前なのか、レオンハルト様は格好つけて『あなた』なんて言う。いつもは『お前』だったのに。
なんだかくすぐったくて、笑いそうになってしまう。花束を受け取り、レオンハルト様が私にもハグをしようとしたのか、手を伸ばした瞬間。
「さあ、席につこう」
父上が声を張りあげ手を鳴らしたので、花束は静かに現れたメイドに連れ去られ、給仕係がレオンハルト様を姉上の隣へ、私を母上の隣へ誘う。
結果、姉上とレオンハルト様が並び、向かいに父上と母上と私が並ぶという、不思議な席次になってしまった。
慌ただしく食前酒が運ばれ、各々のグラスにレオンハルト様の瞳と同じ色の液体が満ちると、父上が立ち上がった。
「では……ヴェルナー艦隊及び、帝国軍の勝利を祝して。乾杯!」