元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

「私からもお願いします」

胸が熱くて居ても立っても居られない。こんなに真っ直ぐな人の前で、黙って座っているだけなんて無理だ。

私は立ち上がり、レオンハルト様の横に歩いていく。彼の隣に並び、まるで親の仇を見るような目つきの父親に向かって頭を下げた。

「私は彼を愛しています。どうか、彼の元に嫁がせてください」

後ろで結んだ亜麻色の髪が肩を滑り落ちる。二人で並んで深く頭を下げること数秒、父上の言葉が沈黙を破った。

「いかん」

顔を上げる。隣で衣擦れの音がしてそちらを見ると、レオンハルト様も顔を上げていた。戦場でも見せなかった険しい横顔が胸を締め上げる。

「ヴェルナー元帥、ルカは私のたったひとりの息子だ。ここまで苦労して軍人として育ててきた」

「苦労したのはあなたではありません閣下。ルカ嬢自身です」

「そうかもしれん。でも、とにかくルカはやらん。同じ顔なのだ。エルザでいいではないか。何の不満がある」

──バン!

全員が驚く。その父上の言葉にテーブルを叩いたのはレオンハルト様ではなく、姉上だった。

「私は不満だわ。妹を愛している人に嫁ぐなんて、嫌よ」

彼女の怒りはもっともだ。姉上も私も、父上の所有物じゃない。こっちはあげたくないからこっちを、なんて言われて不愉快極まりない。

< 163 / 210 >

この作品をシェア

pagetop