元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「お前は黙っていろ、エルザ」
「いいえお父様。この際だから言わせてもらいますけどね、そろそろルカを解放してあげるべきよ。最初から、女の子を男の子として育てるなんていうのが、おかしいのよ」
「黙れ!」
恫喝され、姉上は肩を震わせて口をつぐんだ。母上は何も言わず、ハラハラした表情でみんなを見回している。
「……ルカは一度、皇帝陛下の兵になってしまったのだ。今さら女性だということがばれてみろ。そしてヴェルナー元帥の花嫁だと? お前さんに反発している勢力に槍玉にあげられるに違いない」
苦渋の表情で、言葉を絞り出す父上。
「彼女が男装をしていたことが、皇帝陛下を謀っていたことになると……そういうことですか」
皇帝陛下を謀る。レオンハルト様の言葉の重さが胸にのしかかった。
「お前さんはあまりに勇敢で、あまりに高い武勲を誇り、皇帝陛下の信頼も厚い。陛下の周りを固める貴族たちに睨まれているのがわからんわけではないだろう?」
「……ならば退役し、一般人になります。もともと、そうするつもりでしたから」
「それでも、ルカが軍人として務めていた事実は消せない」
力なく首を横に振る父上。