元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

甘く考えすぎていたのか。男として生きてきた私が、今さら普通の女性として生きていきたいなんて。

「陸軍に戻り、後方勤務を続ける。それがルカが一番安全に暮らしていく唯一の道だ」

父の言葉に、うつむくしかなかった。

私が皇帝陛下を謀っていた罪に問われれば、当然父上も同じ罪に問われる。クローゼ家はおしまいだ。そして、もし結婚していたらレオンハルト様にも迷惑がかかる。

「……もう少し考える必要がありそうですね」

レオンハルト様がため息と同時にそう言うと、父上も息を吐いた。

「今日はお暇します。お騒がせして、申し訳ありませんでした」

レオンハルト様は一礼すると父上の横をすり抜け、ドアを開けて出ていってしまう。私はそのあとを追い、駆け出した。

「レオンハルト様」

「使用人に聞かれるぞ」

「構いません!」

玄関に続く廊下には、誰もいなかった。私はレオンハルト様の手を握り、その足を止めた。

せっかく無事に帰ってきたのに。愛する人が私を欲しいと言ってくれて、それが実現するまであと一歩だった。それなのに……。

溢れてくる涙を押さえられない。男の格好のまま、私は泣いた。

「このまま連れていってください。これきりあなたと離れるなんて、できそうにない……」

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