元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「では、私は任務を全うしたのでお暇します」
「ありがとうクリストフ」
「いいえ」
お礼を言うと、クリストフは微笑んで立ち上がった。細い体がドアの方へ向かう。私もゆっくりと立ち上がり、その背中に声をかけた。
「ねえ、クリストフ。学校に復帰はしないの?」
もともと彼は医者志望だったはず。彼こそ退役して、医学の勉強をしなおせばいいのに。
「……勉強はいつでもできますから。私は今やるべきことを、やるだけです」
振り返った彼は微笑してそう答えると、ぺこりと会釈をして踵を返した。
長い廊下を遠ざかっていく彼の軍服を着た背中。大きめの軍服は彼の細い体に合っていなくて、微妙な違和感を生んでいた。
ふうとため息をつき、誰もいない応接室に戻る。
レオンハルト様、大丈夫なのかな……。
懐に入れた手紙を取り出し、赤い封蝋を見つめる。それは血液の色に似ていた。
この前父上が言っていたように、レオンハルト様の功績を妬んでいる貴族たちに敵視されているなんて。エカベト国王の解放は、彼一人でうまくいくのかな。
やっぱり、どんなときでも傍にいたい。彼を補佐するのが私の仕事だもの。
レオンハルト様の手紙を、両手でギュッと胸に押し付けた。
無力な私は、彼が無事でいるように願うことしかできなかった。