元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
陰謀に巻き込まれて
次の日は、朝からそわそわしていた。むろん、レオンハルト様との密会のことばかり考えていたせいだ。
緊急事態が起きませんようにと祈りながら、今日も経理の仕事にいそしむ。中佐といえども後方勤務の末端にいると、国内のこともエカベトのことも情報が入ってこない。けど。
「……なんか今日、上がざわざわしてないか?」
いつも机を並べて作業をしている同期の軍人、ヴィンフリートに小声で話しかける。昼食を摂るために食堂に移動する廊下で、上官たちとすれ違った。そのときの彼らの表情は緊張感に満ちていた。
「また戦争を起こすなんて話じゃなきゃいいけどな」
うんざりした表情でヴィンフリートはパンを齧った。彼は私が航海に出ている間、私の分の仕事を押し付けられて大変だったらしい。
「そうなったら市民が黙ってないだろ」
労働力を削られたり、税金を増やされたり、痛みを被るのは市民たちだもの。
「いや、ヴェルナー元帥が指揮を執るなら市民も納得するかもしれない」
「どういうこと?」
「市民はエカベトを無血攻略したヴェルナー元帥を神聖視しているらしい。今や皇帝陛下より崇められているって噂だ。こんなこと聞かれたら懲罰ものだけどな」