元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

あのレオンハルト様を神聖視ねえ……。船の中で仲間たちと下ネタを言いあったり、女の人たちに言い寄られている姿を見せてあげたいものだわ。

昼食を終え、午後の勤務もつつがなく終えて陸軍基地から出ていこうとすると、いつも送迎についてくる護衛が二人、どこからともなく現れた。

「今日は直帰していいよ。私は寄るところがあるから」

なるべく自然にそう告げると、護衛たちは顔を見合わせて困った顔をした。

「しかし、クローゼ元帥には、毎日寄り道をせずに送り届けるようにと言われておりまして」

「ああ、そうだよね。でも今日は父上の命令で寄らなきゃいけないところがあるんだ。密命だから、どこへいくとは君たちに言えないけど」

「はあ……」

士官学校を出たばかりの若い彼らは戸惑いの表情を見せる。父上の命令という言葉が一番重く響いているみたい。やがて彼らはうなずきあい、私の前の道を開けた。

「じゃあ、また明日」

駆け出したくなる気持ちを押さえ、歩調を変えないように苦労しながら彼らから離れる。基地を出て、誰も見ていないところで空いている辻馬車を拾った。

「レオンハルト・ヴェルナー邸の近くで降ろしてくれ」

御者は何かを言いかけたけど、少し多めに金貨を渡すと笑顔になり、黙って馬を走らせてくれた。

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