元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
それも、今日まで海軍が海上での勝利を重ねてくれたから。彼らが負けたり、うっかり敵を逃したりすれば敵は我が国に上陸し、陸軍との戦闘になったことだろう。
「そういうものを見なければいけない毎日に疲れてしまったのです。どうかこれからは、民間人として静かに余生を送らせてください」
ヴェルナー氏は形の良い頭を下げた。
余生って。まだ二十代なのに、余生……あと何十年あるのか。
彼の情けない言葉を聞いていると、だんだんがっかりしてくる。一年前のあの日は、あんなに輝いて見えたのに。
「それがな、そういうわけにもいかんのだ。いよいよ敵は全艦隊を率いて最終決戦に持ち込もうとしているそうだ」
「全艦隊を?」
それまで微動だにしなかったヴェルナー氏の眉がぴくりと動く。
「この戦で勝てば、お前の望む静かな生活ができるだろう。しかしここで敵の侵入を許したら、余生どころではなくなるぞ」
父上の言っていることは本当だ。陸軍の諜報部が、その情報をつかんできたのだ。敵国エカベトは、着々と侵攻の準備を進めていると言う。
「それは困ります」
「皇帝陛下の命令があれば、お前は強制的に戦地に送られるだろう。でもそんなことはしたくない。お前には自ら立ち上がって積極的に艦隊を指揮してもらい、この戦いに勝ってほしいのだ」