元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
熱く語りかける父上の言葉に、ヴェルナー氏は深いため息をついた。
「平和な時代がこなければ、軍人は暇にならないということですね」
「そうだ」
「仕方ない、あなたの言葉に従いましょう。しかし、気が進まない戦闘の指揮を執るからにはそれなりの見返りをいただきたい」
膝の上で指を組んだまま、ヴェルナー氏が父上を見つめる。
ええっ、海軍トップが見返り求めるの?
私はびっくりして、思わず口をぽかんと開けてしまった。そんなズルいことを要求してくるのは、腐敗した貴族連中だけだと思ってた。ますますがっかり……。
「……いいだろう。私にできることなら」
「あなたにしかできないことです」
父上にしかできないこと? 落胆でうなだれていた顔を上げると、ヴェルナー氏のアンバーの瞳と目が合ってしまった。
「彼を、私の副官として採用したいのです」
「は? 私を?」
自分で自分を指さしてしまう。父上が立ち上がり、ヴェルナー氏と私を交互に見た。
「いやしかし、これは私の不肖の息子。まだ未熟で、普段は事務官として働いている身だ。戦場に立ったこともなく……」
「だからです。私は、身内だけ国内の奥深くに隠しておいて、関係のない兵士ばかりを前線に送って戦わせる貴族どもを軽蔑しています。あなたはそうでないと信じさせてください」