元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「あれを見ろ! ヴェルナー元帥だ!」
「ほら見ろ、やっぱりご無事だ!」
「ヴェルナー元帥! ヴェルナー元帥!」
レオンハルト様の姿を見つけ、歓喜の声が上がる。宮殿が割れんばかりの市民の声が、私たちの鼓膜に突き刺さった。
「なんだよ……」
レオンハルト様はバルコニーの手すりを両手でつかんだ。
「俺みたいなのを英雄に祀り上げたって、どうにもならないのに」
ぼそりと零したアンバーの瞳が煌めく。市民の声は、権力や勲章よりもよほど、レオンハルト様の心を動かしたようだった。
「静かに!」
レオンハルト様が言うと、市民たちは前列から順番に静かになる。しかしその横面を叩くように、軍隊が押し寄せてきた。
一瞬緊張が走ったが、歩兵の中から馬に乗って現れた元帥は攻撃を指揮するようなことはしなかった。
「父上……」
市民たちの前に立ったのは、父上だった。陸軍元帥として堂々と胸を張ってこちらを見ている。
「レオンハルト・ヴェルナー元帥及び、ルカ・クローゼ中佐。両名を証拠不十分で釈放することが決まった」
父上の低いけれどハッキリと響く声がすると、市民たちが歓声を上げて拍手をした。