元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
新たな時代へ
彼がどうしてここに?
かつてヴェルナー艦隊の一員であったクリストフが、真っ直ぐに銀色のピストルをレオンハルト様に向けている。
武器を持ったことのない彼のそんな姿に、私たちは呆然として立ちすくむ。沈黙を破ったのはレオンハルト様だった。
「クリストフ、やっぱりお前が裏切り者だったか」
裏切り者?
「お前が皇帝陛下を殺害した犯人だな。そして俺とルカにその罪を着せようとした」
「なんだって?」
ライナーさんがにらむと、クリストフがふっと笑った。今まで見たことのないような皮肉をこめた微笑だった。
「ええ、女装までした甲斐もなく、市民が暴動を起こしかけたくらいであえなく釈放とはね。この国の貴族たちがどれだけ腑抜けか、よくわかりましたよ」
女装……ということは、皇居で目撃された亜麻色の髪の女性は、クリストフだったのか。
たしかに普通の男性より線の細い華奢な彼は、私と背の高さもそれほど変わらない。女装してもさほど不自然ではないだろう。
「凶器が俺の船にあった麻薬、しかも注射されたと聞いたときからお前が怪しいと思っていたよ。お前なら誰にも怪しまれずに薬品庫に入ることも、麻薬の棚の鍵を開けることもできる」
「ええ、衛生兵が順番で鍵を保管していましたからね」