元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「ちょっと待ってください父上。姉上の承諾を得なくていいんですか?」
「聞くまでもないだろう。国が誇る『不敗の軍神』の花嫁になれるのだぞ。これ以上の栄光があろうか」
あるだろ。一年前は、皇帝陛下の妻、つまり皇妃の座に姉上をつかせたかったくせして。
結局あのとき私が貴族にワインをぶっかけたせいで、その話は綺麗さっぱり流れてしまったようだけど。
皇帝陛下はともかく、腐敗臭ぷんぷんの貴族たちに嫁にやるよりはいいと考えるのか。
ほとんどの上級貴族や上級軍人の令嬢が政略結婚させられているのは知っている。それが常識であり、恋愛結婚の方が珍しい。
結局、子供は親の言いなりになるしかないのか。
「私は嫌ですよ、父上!」
陸上なら、訓練や任務の後に家に帰ることができる。けれど海の上ではそうもいかない。周りが男だらけの船内で、どう見破られないように生活せよというのか。無理があるにもほどがある。
「ならばこの交渉は決裂です」
ぱっと父の手を離すヴェルナー氏。
「ご子息は、よっぽど海に出るのが怖いと見えますな。無理をすることはありますまい」
肩をすくめてみせるヴェルナー氏の言葉に、カチンとした。
単に私が異動を怖がっていると思っているのか?