元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「いいえ、私が言うのは信頼する上官にしか仕えたくないという意味です。誰が怖いものですか」
両の拳を握りしめ、背伸びをして反論する私の前に、父上が割って入ってきた。
「ならば、私が上官として命令しよう。ルカ・クローゼ少佐。お前をレオンハルト・ヴェルナー元帥の艦隊へ異動させる」
「そんなあ」
また命令? 一年前と同じじゃない。私がだだをこねると、すぐ『命令だ』と言って押さえつけるんだから。ひどい。
「彼なしでは我が国の勝利はあり得ないのだ。少しの間、辛抱してくれ」
両肩をつかみ、幼子にするように私を説得する父上。
ああそう。娘のことより国のことが優先ってわけね。よくわかりましたよ。もうどうにでもなれだわ。
「わかりましたよ! よろしくお願いします、元帥閣下」
やけくそでヴェルナー氏に手を差し出す。
「堅苦しいな。名前で呼んでもらって構わない。艦隊の兵士にも、そうしてもらってるんでね」
私が部下になると決まったからか、握手しながら突然砕けた口調になるヴェルナー氏。微かな笑みをたたえたその顔は、軍神というより悪魔に見えた。