元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
まさか半ば脅迫されてヴェルナー氏の傍にいることになろうとは。そして彼はあのときエルザと名乗った女が実は私だということに全く気づいてないみたい。
彼は、もしかして私のことがずっと気になっていたのかな。花嫁にしたいだなんて……。
そんなことを考えて、頭の中で首を振った。
私は男として生きなきゃいけない。もうエルザにはなれない。
あの日のことは夢だと思って忘れよう。彼に抱いていた淡い恋心が砕けていく。
もしかしたら会った瞬間に私に気づいてくれるかも。そうしたら、この堅苦しい軍服から私を解放してくれるかもしれない。女性として幸せにしてくれるかも……。
そんなふうに、心のどこかで夢を見ていた。
でも現実には女性として求められるのは姉のエルザであり、私は女でも男でもないまがい物として、この先も生きていかなければならない。
「しかし、本当に似ているな」
本当にこの人の副官として前線に行くのか……。色んな意味で自分の心臓がもつか心配だよ。
ヴェルナー氏にまじまじと顔をのぞきこまれ、羞恥で熱くなりうつむく。心臓はうるさく早鐘を打っていた。