元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
近づきすぎです!
自室から出て階段を上がり、屋敷の最上階へ。あるドアの前で足を止め、ノックをした。
「姉上、私です」
「どうぞ」
鈴の鳴るような声で返事があり、内側からドアが開く。ドアを開いたのは顔にそばかすをいっぱい蓄えた、元気な印象のメイドだった。
部屋の中にはたくさんの植木鉢が。それぞれに観葉植物が植わっていて、植物園のような有様になっている。部屋の主はちょうど水やりを終えたところのようで、如雨露をメイドに渡した。
「来てくれたのね。これが終わったら私も会いに行こうと思っていたの」
「朝早くからすみません。昼には出かけなければならないし、帰りが何時になるかわからないから」
「忙しいものね」
いたわるような視線を私に向けるこの部屋の主は、エルザ・クローゼ。自分にそっくりの姉。
「最後の挨拶をと思って」
いよいよ明日、私はヴェルナー艦隊の旗艦に搭乗することになっている。父上とヴェルナー氏の会談の翌日には海軍に異動させられ、一週間後に出航が決まった。
敵国の艦隊に後れを取ってはいけないのはわかるけど、私にとっては地獄のようなあっという間の一週間だった。
陸軍でやり残した事務仕事を後任者に引き継ぎ、すぐヴェルナー艦隊の出航準備に呼ばれた。