元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

『はい、これ。明日までに覚えてこい』

海軍本部の元帥執務室で、ヴェルナー氏にどっさりと両手に余るほどの資料を渡される。

家に帰って広げると、それは私が乗る旗艦の見取り図、ヴェルナー艦隊の組織図などなど……広げるたびに頭痛が増した。

けれど、上官の命令には逆らえない。幸い父の元でも事務作業ばかりしてきた私は、この手の資料を覚えることは苦手ではなかった。けれど、見慣れない海軍の専門用語が飛び交っているので、それを調べながら理解していくには多少時間がかかった。

そして次の日。

『本当に覚えてきたのか。さすが、若者は違う』

自分だって二十代のくせに、しかも覚えてこいって自分で命令したくせに、ヴェルナー氏は感心したように笑った。

その日からは戦艦の基本的な構造、海図の見方などを叩きこまれた。ヴェルナー氏は艦隊の提督、つまり責任者なので、ずっと私につきっきりになるわけにはいかない。

私にそれらを教えてくれたのは、士官学校の元教師というおじいさんだった。

学生たちが何年もかけて習得するものを、一週間で全て網羅することはさすがに無理がある。

とりあえず私の仕事はヴェルナー氏の補佐であり、実戦に出たり指揮をすることはまずない。というわけで、結局事務仕事に必要そうなことを優先して勉強に励んだ。

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