元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「もうこんなこと、やめるべきよ。私がお婿さんをもらえばそれで済むことでしょ。自分の血を継いだものにこだわるなんて、古いわ」
「後継問題だけではないと思いますよ。父上は根っからの武人ですから、自分の息子と皇帝陛下の御ために働く日が来ることを楽しみにしていたんでしょう」
泣く姉上を慰めようとしたけれど、逆に火に油を注いでしまったみたい。姉上は顔を上げ、きっと私をにらんだ。
「そんなの、お父様の勝手よ。ルカが望んだことじゃないわ」
それだけ言うと、姉上はまたさめざめと泣きだしてしまう。女に泣かれると困るって同僚の兵士が言っていたけど、やっとその気持ちがわかった気がする。
「姉上、泣かないで。今回のことに限っては、レオンハルト・ヴェルナーのせいですから。そんなに父上を責めないで」
どうして私が、父上のフォローをしなきゃいけないのか。大いなる矛盾を感じずにはいられない。
「そう言えば、姉上こそ本当に良いのですか? 軍人の花嫁にされるんですよ」
基本的に優しく気の弱い姉は、常々軍人ではなく文官と結婚したいと私に話していた。そんな彼女は涙を拭き、かすれた声で質問に答える。
「……あなたと一緒よ。この国のため、今は容認するしかない。彼が帰ってきたときにどうするか考えるわ。だって、お会いしたこともないんだもの」
会って嫌だったら婚約を破棄できるのか? そんな簡単なことじゃない気がするよ、姉上。