元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「逆を言えば、会って素敵な人だと思ったら結婚するのですか?」
自分で言っておいて、どきりとした。ヴェルナー氏が、姉上と結婚する。軍服の元帥と正装の姉を思い浮かべると、不思議と胸が苦しくなった。
ヴェルナー氏に想いを寄せられるのは、彼に結婚を申し込まれるのは、私だったはずなのに。
ただの女としてあの時彼に会えたなら……そんな意味のないことを考える自分を恥じた。
過去は変えられない。どんなに願っても、私は姉上にはなれない。
「そうね、素敵な人だったらいいわ。そうでなければ、どうにかして嫌われるように最善を尽くすのみよ」
「そうですか……」
優しい姉だけど、我は強い。黙って父上が決めた相手と無理やり結婚させられるつもりはないように見える。
「それよりもお願いよ、ルカ。どうしても行くと言うなら、絶対に無事で、綺麗なままのあなたで帰ってきて頂戴ね。愛しているわ、私の可愛い妹」
姉上にぎゅっと抱きしめられる。彼女の首筋から、ふわりと甘い香りが漂う。
彼女だけは、堂々と私を女扱いしてくれる。それは優しく私を癒したりもするのだけど、切なくさせることの方が多かった。
私は無言で、姉上の華奢で柔らかな体を抱きしめた。