元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
翌朝。
ばあやや母上、そして姉上と父上に見送られ、明け方の軍港に立った私は上空を見上げ、あんぐりと口を開けた。
「でか……」
ヴェルナー艦隊の旗艦の大きさに、しばらく声も出なかった。
鯨なのかと思うくらい巨大な船体の脇腹には、何十もの大砲が設置されている。
甲板の上には女神像が彫られた見事な船首楼。恐竜のしっぽのような船尾楼が後方に長く伸びている。
他にも軍港にはびっしりとヴェルナー艦隊の船が浮かんでいたけど、元帥の乗る船は他の船の十倍の大きさがありそう。
「これが『不敗の軍神』の船……」
いくつもの戦場を渡ってきた貫録を感じさせる船に圧倒され、じっと見上げていると。
「何してる。早く乗り込めよ、ルカ」
突然背後から低い声で名前を呼ばれ、ハッとして後ろを振り向く。するとそこには、軍人にしてはすらりとした長身のヴェルナー氏の姿が。
「お、おはようございます元帥閣下」
慌てて敬礼すると、ヴェルナー氏は優雅にこちらに近づくと、そっと私の肩を抱く。内心で悲鳴を上げたけど、声を出すことはどうにかこらえた。
「閣下はやめてくれ。俺とお前はもう兄弟同然だろう?」
吐息が顔にかかりそうな距離で囁かれ、全身がムズムズした。