元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
陸軍元帥であり、部下に厳しくいつもきびきびとしている父上が、何故か今朝は水を与えられなかった庭の花のようにしょんぼりしている。
「ルカ、申し訳ない。今日だけはそれを着てくれ」
「どういうことでしょう?」
私に女装をしろだなんて。思わず眉をひそめてしまう。
「エルザが風邪をひいてしまったんだ。今日の式典には行けそうにない。ルカ、お前にエルザを装って式典に参加してほしい」
「ええっ?」
エルザと言うのは、私のひとつ年上の姉のこと。その他に五人も年上の姉がいる。エルザ以外はみんな結婚している。
亜麻色の髪にヘイゼルの瞳を持った美しい姉は、私と瓜二つと言われている。いや、私が姉に似ているのか。
「皇帝陛下がエルザの噂を聞いたらしく、『お前の美しい娘に会いたい』と直々に言われてしまったのだ。陛下の期待を裏切るわけにはいかん」
額を押さえて深いため息をつく父上。
「風邪なら仕方ないでしょう。真実をありのままお話しになればいい」
そんなくだらない事情につきあっていられるか。私はばあやが押し付けてきたコルセットをベッドの上に放り投げた。
皇帝陛下は私と同じ二十二歳。そろそろ結婚相手を決めろと言われる年頃だ。だから国中の美しい娘を集めて、品定めしようというわけか。