元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「はい、終わりましたよ」
「ありがとう。いい手加減だった」
背中を拭き終わり、布をレオンハルト様に渡す。彼は自分で胸や脇腹を拭く。胸板は厚く、腹筋は六つに割れていた。
そんな彼を見ていると、自然と胸が高鳴る自分を感じる。
もっと無茶をする姿を見てみたい、か。姉上は基本的に優しい性格だから、あまり無茶はしないんだけどな。
清拭の終わった布を、お湯の入った桶に戻すと、レオンハルト様が思い出したように話を元に戻す。
「あのときのエルザ嬢の凛とした美しさを忘れたことがない。機会があればクローゼ元帥……お前の父に挨拶して会わせてもらおうと思っていたんだが、あのあともほとんど陸上にいなかったからな」
彼の口から自分の事を語られるたび、頬が熱くなる。聞かなきゃよかった……。
「そうですか。姉上は幸せ者です。では、私はこれで」
まるで毒のように、甘い言葉が私の神経を侵食していく。これ以上聞いていてはいけない。
早く用事を済ませ、部屋から出ていこうとした私の腕を、がしりとレオンハルト様がつかんだ。
「あの、何を」
「今度は俺が拭いてやる。服を脱げ」
「はあっ!?」
悪気のない顔で笑ったレオンハルト様が手を伸ばしてくる。