元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「いつも思っていたんだが、船室の中で帽子を被る必要はないんじゃないか。表情がよく見えない」
「あっ!」
すっと立ち上がったと思ったら、視界を狭くしていた帽子のつばを摘み、ぽいと部屋の隅にあるベッドに放り投げるレオンハルト様。
帽子の縁に引っ張られたはずみで、髪の毛をくくっていた紐が解けてしまった。解放された亜麻色の髪が、ぱさりと揺れて肩と背中に落ちる。
「……ほう。そうしていると、本当にエルザ嬢に瓜二つだ」
レオンハルト様が目を大きく開き、じっと頬に髪がかかった私を見つめている。
「さあ、脱ぐがいい」
今度は軍服に手をかけようとするレオンハルト様。ちょっと待って~!
「だだ大丈夫です、布の両端を持って後ろに回してゴシゴシと……とにかく、自分でやりますからっ」
身を守るように両腕を抱き、後ずさる。
「遠慮するな」
追い詰めてくるレオンハルト様。
「そうじゃなくて……」
「慌てすぎだろう。女でもあるまいし」
女だよ、正真正銘の!
叫びそうになったけど、すんでのところで堪える。ついに壁際に追い込まれ、絶体絶命に。ドンと背中を壁にしたたかに打ちつけた時、足元が滑った。