元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「きゃあっ」
「うわ」
自分を抱いていたので咄嗟にバランスが取れず、無様に転んで背中と頭を床に打ち付けた。その上に、大きな影が覆いかぶさってくる。
痛みで涙がにじんだ目を開ける。ぱちぱちと瞬きをすると、クリアになった視界をレオンハルト様の左右対称な美しい目鼻立ちが占領した。
アンバーの瞳と目が合う。触れあってしまいそうなお互いの鼻の先。
「おい、大丈夫か……」
声を発すれば温かい息が唇にかかる。たくましい裸の肩まで視界に認めたそのとき、思わず悲鳴をあげていた。
「いやあああっ」
私は必死で四つん這いになっていたレオンハルト様の下から抜け出す。どうやら一緒に転んでしまったようだと気づいたのは、イスを頼りに砕けそうな腰でなんとか立ち上がった時だった。
「おいおい、人を強姦魔みたいに見るなよ」
よいしょと立ち上がるレオンハルト様を正視することは、もうかなわなかった。
「失礼いたしますっ!!」
壁に沿ってベッドの上の帽子をつかむと、レオンハルト様に背中を向けて全力でドアを開け、そして閉める。その隙間から、きょとんとした顔のレオンハルト様が見えたような気がした。
私は夜風を求めて、甲板まで走った。暗い甲板には見張り以外誰もいなくて、そこでどっと力が抜けた。
ちょっと今のは、刺激が強すぎた……。
夜の風で、裸のレオンハルト様にのしかかられた記憶を吹き飛ばそうと頭を横に振る。
けれどなかなか、彼の姿を海原の彼方に追い出すことはできなかった。