元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
私は皇帝陛下を尊敬してはいない。ただ先帝の次男だったというだけで皇位についただけの青二才で、これといった才能もない。周辺を固める貴族たちの言いなりになっているだけ。
三人兄弟がいるのになぜ才能のない次男が帝位についたかというと、長男は学問好きで権力に興味がなく、三男は戦死し、四男は先天性の病気で亡くなったからだ。ちなみに先帝が亡くなったのも、病が原因だった。
もちろん、こんな思いを公言するわけにはいかない。
「そういうわけにはいかないのだ。お前も大人になればわかる」
「わかりたくありませんね。私は今さらこんなもの、絶対に着ません」
「ルカよ、頼む……」
とうとう情けない声で私に懇願しはじめる父上。怒りが私の腹の中で煮えたぎる。
「そもそも、父上が私にこんなことを頼む権利はないはずです。どうして今さら私が女装など。女に生まれた私を、むりやり男として育てたのは父上じゃありませんか!」
怒鳴った私を止めるように、ばあやがギュッと抱きついてきた。
大海に面した帝国アルバトゥス。私は貴族階級の軍人である父のもとに産声をあげた。
それまで六人の娘がいた父は、生まれた私がまた女子だったので、この上なく落胆した。そして、思いついたのだ。私を、男性として育てることを。
男性のものである『ルカ』という名を私に授け、物心つく前から男子として育ててきた。着替えや入浴の手伝いは、母上とばあやにしか許さず、他の使用人は私のことを本当の男だと思っている。