元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
クリストフの灰色の瞳が怪しい光を漂わせる。いったいなんだろう。気になった私はうなずき、クリストフに誘われるまま、人のいない方へと歩いた。
やがて、誰もいない倉庫が並ぶ廊下の奥にたどり着くと、クリストフがやっと口を開いた。
「お付き合いくださり、ありがとうございます。実は……私は初めてお見かけした時から、あなたをお慕いしておりまして」
「……はい?」
いったいどんな密告かと思ってついてきたのに、クリストフは予想外の言葉を口にする。
「お慕いって……」
「私は医者を目指しておりました。けれどこのたび、無理やり入隊させられ、ここにいる次第です。もともと戦いたくてこの船に乗ったわけではありません」
「で?」
べらべらと自分のことを話しだしたけど、結局何が言いたいんだろう? 聞き返す声がちょっと意地悪い響きを帯びてしまったのは許してもらいたい。
「あっ!」
「え?」
突然クリストフが私の背後を指さすので、思わず振り向いてしまった。彼に背を向けたその瞬間、がばりと抱きつかれた。当然、背後には何もなかった。
「きゃああ!」
「明日敵と衝突すると聞き、怖くてたまらないのです。少佐、あなたが口づけを与えてくれるなら、私にとりつく臆病な悪魔もたちまち退散するでしょう」