元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
耳元で囁く声がかすれていて気持ち悪い。なんとか逃げようとするけど、両腕を封じるように抱きしめられてしまっている。
「離せ! 見た目が女っぽいからといって見くびるな!」
「わかっています。私は男にしか興味ありません」
そういうことじゃなくて。意外に強いクリストフの腕は、私を放そうとしない。
「あなたのような美しい青年を初めて見ました。さあ、怖がらずに私にすべてを任せて。男色の経験は?」
「あるか!」
そう答えると、クリストフが耳元で不気味にほくそ笑んだ。そんな音が唇の端から漏れて聞こえた気がする。
「では戸惑うのも無理はありません。しかし、大丈夫です。大事にします。優しくしますから……」
聞いているうちにぞわぞわと鳥肌が立つ。こいつ、初めての船旅で船酔いしすぎておかしくなってしまったんじゃあ。
一刻も早く逃れようと体をよじっていると、ピチャッと耳元で不快な音がした。耳たぶが冷たい。これって、これって……耳、なめられた!?
「ひいいいい!」
誰か助けて! 足をジタバタしていると、ふっと私を拘束する腕の力が緩んだ。
そのすきにクリストフから逃れ、反撃してやろうと振り返る。その瞬間、動きが止まってしまった。