元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

なぜなら、クリストフも完全に動きを止めていたから。息さえ止めているようにも見えた。両手を肩の高さまで上げた彼のこめかみに、冷たい銃口が突きつけられていた。

ピストルを持っていたのは……。

「レオンハルト様!」

ベルツ参謀長と会議をしているはずの彼がなぜここに。ぱちぱちと瞬きをすると、レオンハルト様はますます顔色を悪くしたクリストフを凍りつくような視線で射抜いた。

「俺の副官に何か用か、若いの」

低い声でそう尋ねられ、クリストフは余計に何も言えなくなっている。

「やれやれ。自分より弱そうなやつにしか雄弁になれないのか。不憫なやつだな」

呆れた顔でピストルをこめかみから放すレオンハルト様。その瞬間にほっとしたのはクリストフだけじゃない。私もだった。

「戦闘が怖いなら、帝国に帰るまでずっと船艇の牢で謹慎するがいい」

「申し訳ありません、提督。私は本当に少佐をお慕いしており……」

最悪な釈明だ。こいつ、本当に頭悪いんじゃないか。他人の怪我や病気を治すより前に、自分の頭をなんとかしなよ。

不快に思ったのはレオンハルト様も一緒だったらしい。

「好きなら何をしてもいいのか? 嫌がられているんだから、さっさと諦めろよ。空気の読めないやつは軍の足並みを乱しかねない」

「そんな」

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