元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
大人になるにつれ、自分の体が女に変わっていく。それを実感しながら男として生きることに何の障害も抵抗もなかったとはとても言えない。
ひとつ上の優しい姉上が可憐な花のように気飾り、ピアノやダンスを練習する姿をどうしようもなく羨ましく思ったものだ。代わりに私に与えられたのは、剣とピストルと軍が運営する幼年学校の制服だった。
「お前の怒りはもっともだ」
父上はしょんぼりとうなだれた。しかし、深呼吸をするとビシッと背を伸ばして威圧的な声で言い放った。
「しかし、お前も軍人だ。皇帝陛下に仕える義務がある。そして、上官である私の命令に従う義務も」
「命令ですって?」
「ルカ・クローゼ少佐。お前に姉・エルザの代わりに式典に参加することを命ずる。皇帝陛下の御ために。ばあやにはルカを無事に女装させることを命じる」
腹の中で煮えたぎる怒りが、血まで沸騰させそうだ。私ももちろんだが、ばあやが父上の“命令”を裏切れば、罰されることは必死。私だけならいいけど、ばあやは巻き込めない。
結局、父上の言う通りにするしかないということか。無理やり口から外に出かけていた怒りを唾液と一緒に溜飲する。
黙ってにらんでいると、父上も黙って部屋の外に出ていった。扉が閉まると、ばあやがホッとため息をついて私から離れた。