元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
新たな指令が飛んだ瞬間、獣がのどを鳴らすような音が船尾の方から聞こえてきた。
この辺りの海流は複雑で、時間によって海面に渦が発生する。その渦がちょうど、味方艦隊の左斜め後ろに現れたのだ。
自然、私たちに猛追をかけていた敵艦隊は、その渦に向かっていくことになる。最前線にいた船たちが流れにあらがえず、まだ小さな渦に舵を取られ、航行不能になる。
渦を背後に前進して離脱するヴェルナー艦隊と、最後尾にいた敵の旗艦が船首どうしが鼻をかすめるようにすれ違う。
その瞬間、敵艦からカギ爪のついたロープが何本も投げ込まれた。
「船を捨てて乗り込んでくる気か。かまわん、そのまま前進しろ!」
スピードを出しすぎていたせいで自制が効かず、そのまま徐々に大きな口を開ける渦の中に飲み込まれていく敵軍。
敵の戦艦どうしがぶつかり、きしみ、折れ曲がり、無慈悲な深淵に沈んでいく。ヴェルナー艦隊は渦から逃れるために全力で離脱する。
引っ掛けられたロープは空中で振り回される結果となり、遠心力でカギ爪が外れ、なんとかつかまっていた敵兵は悲鳴をあげながら冷たい海面へ落下していった。
渦を避け、敵の後方へ回り込んだヴェルナー艦隊は、まだ渦の手前であがいている敵旗艦に砲撃を浴びせる。