元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「撃ち方やめ!」
レオンハルト様が声を張り上げると、砲手たちはぴたりと動きを止める。とうとう敵旗艦が渦の中心にその艦体の半分を預けて傾いた。
あとは沈没していくだけ。
黒く塗られた巨大な艦体。長く伸びた船主が助けを求める腕のように、空へまっすぐ伸びていた。
「勝った……」
雨粒が頬を叩く。瞬きをすると、まつげから滴が落ちた。
艦隊どうしの戦いって、もっと激しい砲撃の応酬があるものと思っていた。けれどレオンハルト様は、最低限の攻撃と防御で、敵艦隊を海の底に沈めてしまった。
ほっと息をつき、気づいた。私、左右に激しく揺さぶられる甲板の上で立っているのがやっとで、レオンハルト様にしがみつきっぱなしだった。
「も、申し訳ありません!」
敵軍を引き付けるため、いい加減で大砲を打つという職人技を見せつけたライナーさんに、難しい船のかじ取りをいとも簡単に成し遂げたアドルフさん。そしてこの作戦をレオンハルト様と一緒に立てたベルツ参謀。
みんなはしっかり役に立ったのに、私はレオンハルト様にくっついていただけ。
いろいろな意味で恥ずかしい。頬に熱が集中していく。
「あーあ、物足りないな。まあ、勝ったからいいか」
ライナーさんは両手を頭の上で組み、ふうと息をついた。